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私は25ページ1440円の同人誌(文字だけ)を売った

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同人小説から見る「正しさ」

 こんなつぶやきがありましてん。

 自分の周りではあまり実感しなかったけれど……。

togetter.com

 こういう話題がホットホットだったのが、昨晩の話。

 20ページ500円!

 漫画本ならあるけれど、小説本ではあまり無い価格設定ですね。

 しかし、言っている内容にはうなずける部分も多いわけです。だらだらとした長文、やる気のない装丁、味も素っ気もないスペース……それで売れないと愚痴るのはお門違い。

 あっ! あっ! 耳が痛い! もげる!

 

  実際問題、同人というのは自分で値付けをするわけです。翻って考えれば、営業も販促もすべてが委ねられている。

 他方、同人というのはあくまで愛好者の集いです。究極の身内受け。仲間内で楽しめればそれでよし。その嗜好が他の人にも伝わればいいよね、と。

 だからこその「頒布」。小売とは違うのだよ感。

 どんな結果を招来するにしても、それが自分の現時点の力量ですからね。

 

 だから、商業作家の先生が商業的観点、文章というものの価値から見た価格設定、在庫リスクへの考え方を取るのは正しいわけで。

 もう一方を見るならば、趣味人としての同人作家が、自分のライフワークとしての頒布と結果が出ないことへの苛立ちを抱くのも正しいと思うのです。

 ただ、世間的には前者の方が評価される。

 これはなぜか?

 私はそれを世界への認識の差、知見の及ぶ範囲の広狭にあると考えました。

 

ツイッターだけが彼氏彼女の世界になる

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 ふたつ並べてみましょうか。

  ・商業作家。フリーライターとしての実績も豊富で、同人にも通暁するベテラン。

  ・同人作家。売上は中小から零細ピコ手まで。基本的に商業実績はない。

 さあ、どっちの言を信頼しますか!?

 

 なんて残酷な問いはおいておきましょう。

 それに、後者の人格がすぐれていて、それを周りの人間が知っていたら、状況もおのずと変わってくるでしょうからね。

 

 ここで考えたいのは、両者の「世界」というものへの認識の差です。

 前者は酸いも甘いも知り尽くしているわけです。業界のことなら何でもござれ。

 後者は夢に燃えている。ただし、同人活動以上の分野には踏み出せていない。

 

 となると、彼らが言うところの「正しさ」はどこを基準に決められるのでしょうね?

 すでに多くの業界人とも交流があり、その正しい相場、売るためのノウハウ、生き残るための術策に精通しているならば、これらを総合した「絶対価値」をベースとして発言するでしょう。

 ツイッターなどのSNSを中心として活動し、同人誌即売会などでの同志との交流も篤く、同人小説にとっての最適な価格帯、全体との調和を考えてそうあるべき「相対価値」をベースとして発言するでしょう。

 

 おや、正しさを基準にしているのに、全く違う意見が並立してしまいました。

 まるでハーバード大学のサンデル教授の名物講義「JUSTICE(正義)」のようではありませんか。

 そうです。誰もが自分の正しさを抱いているのです。正義の疾風が荒れるぜゲッターなのです。おっと、ジャスラック様、これはほんの出来心で……!

 

 ともあれ。

 その上でどちらが支持されやすいかというと、「実績」という錦の御旗を掲げた前者なわけです。残酷ですが、現実に結果を出している人間が信頼されるのは世の常人の常。

 

「やばいと思ったが、性欲を抑えきれなかった」――オスカー・ワイルド

「やばいと思ったが、性欲を抑えきれなかった」――ある歌い手

 

 どっちの方が説得力あります?

 えっ、例が悪い?

 そらまた失礼しやした!

 ともあれ、実績が大事という点に触れてしまったので、ここは私の経験も開陳させていただきましょう。

 

私が25ページで1440円の同人誌を売れた理由

 嘘はついていません。

 しかし、誤解を生む誇大広告ではある。

 その点についての弁解はしませんが……ともあれ、何を売ったのか端的に申し上げましょう。

 

・売ったのは小説本ではなく競馬予想について書いた電子書籍

・中間マージンを取られないサービス利用のため売上=純利益

 

 騙したつもりはござんせんが、これは一種の真理を突いているものと信じております!
 すなわち……。

 

  ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である

 

 マーケティングの世界で古くから語られている格言です。

 競馬予想本を求めるのは、もちろん競馬で当てたい人に他なりません。

 私はそういう需要層に4ページのサンプル(総ページ比20%の無料公開)で期待を抱かせ、その中から購買に至った層には完全な情報を提供しました。

 競馬がわかる方には、「ビートブラックとコパノリッキーの単勝万馬券を両獲りできる理論」と言えば、すごさがわかっていただけると思います。

 そういう「希望に適う価値があった」からこそ、このページ数でも売れました。

 

 価値!

 残酷にすら感じられる言葉です。

 しかし、これが現実です。

 

  しろうとが書いた小説に、どれほどの価値がある?

 

 大多数がこの答えに行き着いてしまう。在庫はカートからあふれ、涙も止めどなく流れ落ちる。その苦しみをわかってくれるのは、同じ在庫地獄に堕ちた仲間だけなのです。

 何たる悲哀か!

 何たる無残か!

 でも、それが悲しいことだなんてつゆとも思わないのが、一般にして大多数の参加者の意見なのです。「ようわからん駄文の塊を500円で買うくらいなら、何回でもヌける18ページのエロ同人漫画を買う」層が、支配的多数なのです!

 こっちの言説の方が、むしろ共感できる読者の方が多いのではないでしょうか?

 

同人小説家たちよ。価値を得よう、見返してやろう!

togetter.com

 よう言った!

 私も分厚い本が好きです。世界に耽溺させてくれて、ページを繰る手が止まらなくなって、眠る時間さえ惜しくなるような本が大好きです。

 しかしながら……。

 ああ、しかしながら!

 そのような本はあまりにも遠い。語彙は貧弱、展開はベタ、歩く姿はアホウドリ。

「改行を減らせば格調高いってわけじゃねぇかんな!」

「何でもかんでも漢字にするな、開いてくれ!」

「リーダーと三点リーダーが文章の半分くらいについてるんですけお!」

 と、ブーメラン真っ盛りの大豊作になりそうな感想を抱いてしまう本が多いのが現実です。

 いかん、この言葉、思ったよりも自分に効くぞ……。

 

 それでも、私たちは目指すわけです。

 漫画に負けない娯楽性を!

 動画に負けないスペクタクルを!

 そして、いつかは達成するのです。

 

  200ページ5000円で売れる本を作る!

 

 万金をもってしても購えない価値の創出。

 それは言語の芸術として最高の実績解放ではありませんか。

 プロの大家のプレミア価格なら、200ページ5000円なんてむしろ破格。お安いもんです。

 今回の騒動の火種となった「20ページ500円」の比率にも合致していますからね。

 

 自分はプロになりたいわけじゃない?

 自分たちの庭を荒らされたくないだけ?

 

 そういう層がいることも存じております。あくまで私の話です。

 でも、ひとつだけ言いたいのです。

 

  実績をもって封殺してくるのならば

  実績をもって応戦するより他になし

 

 不良在庫ですって?

 ふん、ならば優良在庫にしてみせるわ!

 この気概でもって立ち向かいたい。そうした強烈な気分の発露をお届けしました。

 

 価値を!

 何物にも代えがたい価値を!

 

 え、400ページ10000円?

 うん、何だか初鰹みたいな感じのお値段で、すごく出してみたい。

 誰かに手にしてほしい。

 私の世界観で皆様の心を染め上げてしまいたい……。