強姦致傷容疑からの不起訴は2件に1件発生していた
高畑裕太氏の不起訴に端を発す
センシティブな内容である。
世間の見方は「金で不起訴を買った」という向きであるが……。
こういう内容の記事もある。
事実、「強姦致傷はあった」ものとして、各マスコミは報じていた。SNSの論調もそうだった。
私も、そういう気分で事態を見ていたように思う。
確かに、私はこれでも法学を収めた学士である。
しかし人間の感情というものは勝手なもので、「若い世間知らずで暴虐な2世俳優が善意で過ごしていた一般女性に性的暴行を働いた」というシナリオが、すごく自然なものとして、ありうるものとして、「そうであってほしい理想」として受け止められた。
原則から言えば、そんなことはあってはならないのだが。
実際のところ、高畑裕太氏は何に対して謝ったのだろう?
山田風太郎先生の短編を思い出す。テレビドラマのタイトルは「世間様に申し訳ない」なのだが、短編のタイトルは何だったか……。
人間の記憶の薄弱さを痛感せざるを得ない。
ともあれ、彼は謝った。
世を騒がせたことについてか、己の若き愚行についてか、本当に罪を犯したことについてか。「多大なる迷惑」は誰が誰に対して掛けたのか。
人間の感情は、ひとつの定性を得ると容易に変化しない。
「あれは犯罪をする人間の目だ」
「そういえば、こういう事例が」
という言説が雨後のたけのこのように湧いて出ている。
これもまた「日頃の行い」が大切ということなのかもしれないが、事件がなければそうした本心を隠して付き合いを続けていたのだと考えると、何とも言えない気分になる。
Twitterで話題になった事案
高畑氏の不起訴のニュースに関連付けて、Twitterではこのニュースがクローズアップされていた。
元警察官らが20代女性を集団強姦したという事件。5名ともやったことについては認めているが、「抵抗が弱まったことから合意があった」と認識していたような弁解をしたという。
字面だけ見たらひどいもんである。
5人で襲っておいて抵抗が弱まったから和姦なんて、ちょっとギャグの入ったエロ漫画で使うようなロジックだ。
だが、実際のところ、合意のある性交とは何なのだろうか?
相手が複数で命と貞操の危機を感じていたとしても、抵抗をあきらめたら合意になってしまうのだろうか?
一方で、不起訴理由が「嫌疑不十分」ということから、これらの情報もまた被害者である女性のものに偏っているのかもしれない。
それでも、やはり酷な目に遭ったように見える女性の方に肩入れしたくなるのは私だけだろうか。
こういう態度が痴漢などで見られる冤罪を生んでしまっているのだろうか。
やだなあ。
世の中って、めんどくさいなあ。
不謹慎ながら、私はそう感じてしまう。
この世はとかく生きにくい。
それでも、文明の発達がこうした暴力を制限してきているのも事実なのだろう。
強姦罪の不起訴率は50%前後
調べたらいくつかの数字が出てきた。
こちらでは見出しの通り。
「強姦・強制わいせつに関する統計(警視庁)」では強姦罪のデータを公表しており、不起訴率はなんと53%(平成22年)、つまり2件に1件は不起訴となっている。
ということである。
今回の高畑氏の一件のように、示談が成立しているケースが多数のようだ。
被害者の9割が女性というのは、やはり単純に男性の暴力性を示しているのだろうか?
それとも文化的に、女性が弱者として認知されているだけであり、男性が被害者となる性的暴行が認められていないだけなのだろうか?
強姦罪の起訴率は約53%です。重大犯罪であるにもかかわらず、それほど起訴率が高くない理由は、起訴するにあたって被害者の告訴が必要とされているためです。不起訴となった事件の半数以上(約52%)が告訴の欠如、取消を理由とするものです。起訴された場合、強姦罪は性犯罪の中でも特に罪質が重く、初犯でいきなり実刑判決となることも珍しくありません。
こちらも53%。親告罪である点にクローズアップしている。
もし実際に被害者になったとしたら、嫌な過去を思い出させる告訴から以降の流れはなるべく触れたくないという願いもあるのだろうか……。
こちらも53%が不起訴。どうやら間違いなさそうだ。
内閣府の男女共同参画局の資料へのリンクがあったので、こちらでも利用させてもらった。
また、不起訴理由の内訳ですが、9割が「告訴欠如・取り消し」です。
誤認逮捕や冤罪率は低く、大抵は女性側が泣き寝入りすることで不起訴となります。
性犯罪全体を通しても、冤罪率は1%以下です。
潜在冤罪を考慮する場合は、潜在被害も考慮しなければいけません。
9割の女性が訴えないので、潜在数を考慮すると冤罪率は更に低くなります。
女性が被害にあいやすい犯罪の潜在件数は年間10万件ほどです。
冤罪数は、潜在数を最大考慮しても2%くらいです。
1%でも冤罪は問題ですが、冤罪による苦痛と被害者の苦痛が同等であるなら、98%の被害を無視するわけにはいきません。
こちらは女性の側に立った観点で問題を提起している。
冤罪率が1%以下というのはどこから来たデータなのだろう?
ただ、本当にこれだけ潜在数があるとしたら、相当な量の「泣き寝入り」があることになる。
現実に即した法改正への道が開かれるか
そうして、この記事を締めようとしていたところ、こんなニュースが入ってきた。
成立すれば、明治以来の大改正となるらしい。
「男性が加害者、女性が被害者」としてきた「強姦」の定義も拡大され、性の区別なく処罰の対象となる。
ということだ。
やはり性犯罪の被害者が女性に偏っているのは、刑法典の内容にもあったようである。
いよいよ現代の要請に即した内容になるということだろうか。
現行の強姦罪などは加害者の「暴行や脅迫」が成立の条件で、「被害者が抵抗しなかった」として立件が難しいケースがある。新たな罪では、抵抗の有無にかかわらず、罰することができるようになる。
実現すれば、これも上に挙げたようなケースに対応する法改正になりそうだ。